レビューのようなもの

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第5回:オレンジ・イズ・ニュー・ブラック


オレンジ・イズ・ニュー・ブラック予告編 - Netflix [HD]

 

ニューヨークの裕福な家庭で育ったお嬢様である主人公パイパー・チャップマンは、10年前に当時のレズビアンの恋人の麻薬取引を手伝った罪で投獄される。彼女と他の女囚人との刑務所での生活を描いたヒューマンドラマである。

2010年に刊行されたパイパー・カーマン(Piper Kerman)のノンフィクション『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女性刑務所での日々』(Orange Is the New Black: My Year in a Women's Prison)を原作としている。

1stシーズンは2013年7月11日に、2ndシーズンは2014年6月6日に、3rdシーズンは2015年6月11日に、4thシーズンは2016年6月17日、5thシーズンは2017年6月9日に、6thシーズンは2018年7月27日にそれぞれ公開された。5th、6th、7thシーズンの製作が2016年2月に発表されている。7thシーズンをもって終了と発表されている

2016年2月の時点でネットフリックスで最も視聴された"オリジナル"作品であると発表されている

日本語版は2015年9月よりネットフリックスより配信された。”Wikipediaより抜粋)

 

 

NETFLIXオリジナルドラマの中で一番有名な作品。

主人公のパイパー・チャップマンは10年前に若気の至りで犯した罪により、今更になって女子刑務所に15ヶ月も収監されることになる。

裕福な家庭で育ち、友人と会社を共同経営しているインテリで白人の彼女にとって、刑務所の中異世界そのもの。

ワルに囲まれ独特のルールに翻弄されながら、少しずつ環境に適応していく彼女の囚人生活は、「波風立てずにおとなしく過ごす」という当初の目標から大きく外れていくことになる。

 パイパーの監獄生活を追い、レズビアンの元恋人アレックスとの再会や他の囚人との諍いを経て、彼女は無事に刑期を終えて外に出られるのか、というのが話の主軸となるが、物語は彼女以外の登場人物にもフォーカスをあてていく群像劇として進行していく。

 

 

この作品の見どころは人物表現とキャスティングの妙だ。

刑務所が舞台となっているため、必然的に登場人物の殆どは囚人であり犯罪者である。しかしそんな彼女たちの振る舞いは人間味に溢れており、垣間見せる強さや弱さに共感する部分もあり、それは彼女たちが単なる罪人や悪人ではなく、良いところも悪いところもある一人の人間であると強く感じさせる。

そんなキャラクターの魅力を最大限に発揮させているのがキャスティングだ。まるで本当にドラマの世界の住人なのではないかと思わせるくらい登場人物全員がハマり役で、囚人役にこれだけ個性的な女優をそろえることが出来るという事実からアメリカのエンターテインメントの力量が伺える。

 ただし、大勢のキャラクターが綯い交ぜとなって紡がれる物語なので、キャラクターの名前を覚えるだけでも大変かもしれない。

  

パイパーは大学卒業後に麻薬の売人の愛人であったアレックスと出会い、お互いに惹かれていく。やがてアレックスと共に麻薬の運び人役を手伝うようになるが、最初は火遊びとして楽しんでいたものの、やがてついていけなくなってしまいアレックスの元から去る。

その後友人と共に会社を興し、婚約者もできて順風満帆だったが、逮捕されたアレックスが司法取引による減刑目的でパイパーの名前を証言したことで獄中生活を送ることになる。

刑務所内でアレックスと再会した当時は自分の人生を台無しにした相手として激しく憎むが、その後色々あって元の鞘にもどり、シーズン6では獄中結婚をする。

最初は今まで経験したことのない劣悪な環境に戸惑い、さらに余計な一言をいってしまう悪癖で無用のトラブルを何度も起こして悲惨な目にあうが、次第に刑務所の空気に慣れると悪知恵を働かせてマフィアごっこを始めたりと、調子にのって暴走してしまい、さらに悲惨な目にあってしまう。

おとなしく過ごしていれば痛い目に合わずに済むのに…と毎回思うが、その馬鹿さ加減がこの作品の面白さでもある。

パイパーの元恋人・アレックスはタフで切れ者でカッコイイ女である。時にパイパーを翻弄し、時に彼女に翻弄されながら、何かとトラブルを引き起こすパイパーを陰に日向に手助けする。後述するニッキーと並んで魅力的なキャラクターである。

序盤は頭の中が読めない危険な人物のようにも感じられるが、後半はひたすらパイパーに振り回されている苦労人としか観れない。

 

 刑務所の中では人種ごとにグループが形成されているので、それぞれの派閥と注目の登場人物を紹介していく。

 

厨房の支配者である”レッド”ことレズニコフ率いる白人グループには、同じく白人であるパイパーアレックスも所属することになる。

レッドは古参の囚人で刑務所内のボスとして君臨している。自身の派閥の人間を娘のように扱い、彼女たちを自身の本当の家族同様に大切し、ファミリーに危害を加えようとするものに容赦をしない冷たさを持つ。しかし、厨房から追い出され権力を失うと途端にしょぼくれてしまったり、カウンセラーのヒーリーに恋心を抱くなどチャーミングな面も見せる。

レッドの腹心であるニッキーは軽妙でクールな物言いが特徴で、面倒見もよく義理堅い人柄のため、作中屈指の魅力的なキャラクターである。両親に対して複雑な感情を持つ彼女はレッドのことを実の母親のように想っており、ファミリーの若頭として活躍する。また、ハードなレズビアンで引っ切り無しに他の女囚を喰い漁っており、巨漢のレズビアンであるビッグ・ブーとのレズビアン対決を始めるなどコミカルなシーンも多い。本命の恋人は妄想癖のあるローナで、時に喧嘩をしながらも良い関係を築いている。

序盤とのイメージの差が最も大きい人物がペンサタッキーだ。クリスチャンで、妊娠と中絶を繰り返した挙句に中絶手術を施した病院にライフル片手に乗り込むというクレイジーな女性であり、取り巻きを作ってパイパーと敵対していた時期もあった。しかし後半では取り巻きに裏切られ孤独になり、忌避していたレズビアンビッグ・ブーと和解したり看守と恋愛関係に発展するなど、狂気が静まり可愛らしくなっていく。

他にはレッドの腹心のノーマジー、倫理観がぶっ壊れたジャンキーコンビのリアンアンジーなどに注目したい。

 

黒人グループは主にテイスティとその仲間たちを中心として話が展開していく。

テイスティは大柄な体格で、ソウルフルで陽気な性格だが、短絡的で繊細な部分も垣間見られる。日本人にとって創作物に登場するステレオタイプのような黒人女性に感じるかもしれない。

テイスティの親友であるプッセイは小柄なレズビアンで、テイスティに惚れているが受け入れられず友人関係を続けている。

シンディテイスティと同じく大柄でノリがよくおしゃべりだが倫理観がぶっ壊れており、彼女のことを快く思わない視聴者も多いだろう。

独特の存在感を放つのが”クレイジー・アイズ”ことスーザン。その綽名の通りクレイジーな言動を繰り返すが、ある意味マスコット的な存在のため人気は高いと思われる。

他にもニューハーフのソフィアや、パイパーと同日に収監された元陸上選手のジャネーなどが頻繁に登場することになる。

 

 ヒスパニック系のグループには凶暴な人物が多数存在しており過激な印象があるが、このグループでは家族の物語が中心に展開され、最重要キャラクターはパイパージャネーと同日に収監されたダヤナラである。

ダヤナラのストーリーは母子の物語だ。彼女の母親は同じ刑務所に収監されている先輩囚人のアレイダである。アレイダは恋人であるドラッグの売人との交際で忙しく、他の兄妹たちの世話をダヤナラに押し付けて放置していたので、母娘の仲は悪い。しかし、ダヤナラが看守と恋に落ちて妊娠してしまうと、アレイダは母親として積極的に行動するようになる。

アレイダの人となりは、目先の金銭にしか興味がない下品で無教養なダメ親だ。しかし、ダヤナラを気遣う様子や子供達との生活の為に苦悩し奔走する姿を見れば、彼女がダメなだけの母親ではないことが判る。善人ではないが同情の余地がない悪人ではない、この作品を象徴する人物の一人である。

マリアはギャングのボスの娘で、序盤で獄中出産をした後は暫く目立った活躍は無いが、後半になるとマフィアの血が目覚めたかのように派手に動き出す。そんな彼女もまた子供を想う母親でもある。

 グロリアはしっかり者の肝っ玉母さんといった人物で、レッドが失脚して厨房を追い出されたのちに料理長となった。アレイダの友人でもあり、アレイダが出所する際に残されたダヤナラを手助けするよう頼まれた。息子の手術に立ち会わせてもらえるよう苦心するが、子供に会いたい一心で行動したマリアに機会を潰されてしまい、彼女を激しく憎むことになる。ソフィアとは親友関係にある。

他にも若い美女コンビのマリッツァフラカ、容姿のインパクトが凄いブランカが重要なポジションにいる。

 

そして囚人だけではなく、刑務所側も魅力的な人物に溢れている。

 

刑務所における管理職の一人で後に所長にまで出世するカプートは、刑務所の責任者として囚人の待遇や看守の統率に苦心し、時には刑務所を経営する親会社に反抗するなど、男気のある一面を見せる。決して囚人の味方というわけではないが、彼の刑務所で働く職員や囚人たちが不当に扱われることに正当な怒りを見せる。

カウンセラーのヒーリーは、序盤ではその恰幅の良い見た目も相まって切れ者の狸爺のような印象を受けるが、物語が進むにつれて彼の異常さが見え隠れし、彼が抱える孤独や闇が明らかになっていく。

囚人たちとフランクな関係を築いているのが看守のルスチェックだ。恰幅の良い独身の白人男性で、仕事に対する意識が低く、そのため囚人に対する締め付けも緩く、融通の利く相手である。しかし彼もまたモラルの低い人間であり、ドラッグを横流しして小銭を稼いだり、看守仲間と共に囚人を賭けの対象としたゲームに興じたりと、非道な側面も見せる。

 

長編作品のため途中でリタイアしてしまう人もいるかもしれないが、そんな方にはせめてシーズン3の最終話まで見てほしい。ここに作品屈指の名シーンが存在する(※個人の感想です)。

それは、囚人たちの水遊びである。

シーズン3最終話の後半で、補修の途中で放置されたフェンスから囚人たちが逃げ出し、茶色く濁った汚い湖で水遊びをする。

これまで様々なトラブルを抱え因縁のあった連中が、人種や派閥の関係なく子供のようにはしゃぎ回る姿は、人間の持つ美しさの本質を垣間見たような気にさせる。

特に、ペンサタッキービッグ・ブーがペンサタッキーの元取り巻きであるリアン&アンジーと一緒に遊ぶ場面は、これまでの彼女たちの動向を見守っていた身として感動すら覚える。

 

 

ブレイキング・バッドプリズンブレイクなどの過去の名作と比べても引けをとらない傑作で、相応の評価を受けている作品だが、その特殊な内容と表現のせいか身近に賛同者が少ない印象がある。

なので人によっては相性が悪い作品なのかもしれないが、合う人には大好物となり得る作品なので、時間が空いたら是非観てほしい。

そして来年公開だと思われる最終シーズンを期待して待とう。